ロコモティブシンドローム(ロコモ)とは
ロコモティブシンドローム(以下、ロコモ)は、運動器(骨、関節、筋肉、神経)の機能が低下することで、立つ、歩くなどの移動能力が衰える状態を指します。この状態が進行すると、日常生活での自立が難しくなり、要介護や寝たきりのリスクが大きく高まります。
ロコモは早期の対策で進行を防ぎ、健康寿命を延ばすことができます。特に50代以降の方は、運動機能の状態を定期的にチェックし、運動習慣や栄養改善を継続することが重要です。ロコモは高齢者に多い問題ですが、運動不足や栄養バランスの乱れが原因で若い世代にも発症する可能性があります。
日本は超高齢社会を迎えており、ロコモ対策は健康寿命の延伸と医療費抑制の観点からも非常に重要な課題とされています。体に痛みや違和感がある場合は、無理をせず早めに医療機関を受診してください。当院では、一人ひとりのお体の状態に応じたアドバイスや治療を提供し、皆さまが自立した健康的な生活を送れるようサポートいたします。
ロコモの現状
日本では約4,590万人、人口の約3分の1がロコモと判定されています。この数字はロコモが国民的な健康課題であることを示しています。ロコモリスクは50代以降に急増します。50代では約4割、60代では半数以上の人がロコモリスクを抱えており、中年期以降にその傾向が顕著です。 また高齢労働者の増加に伴い、「勤労者ロコモ」が注目されています。2023年のデータでは、60歳以上の労働災害は約4万件にのぼり、そのうち「転倒」が最も多い事故原因として挙げられています。転倒事故を防ぐためにも、ロコモ対策が重要です。
ロコモの主な原因とリスク要因
ロコモを引き起こす主な原因は、運動器の加齢変化や生活習慣に起因するものです。以下にその具体的な要因を解説します。
- 加齢による変化
年齢を重ねると筋力が減少し、骨密度が低下します。特に閉経後の女性は、エストロゲンの分泌低下により骨粗鬆症のリスクが高まり、骨折や運動機能の低下を引き起こす可能性があります。さらに、筋肉量は20代をピークに減少し始め、60代ではピーク時の7割程度にまで低下するとされています。 - 運動不足
現代社会では、車や公共交通機関の利用増加、デスクワークの多さなどにより、身体を動かす機会が減少しています。運動不足は筋力低下を招き、関節の可動域が狭くなるなど、運動器に直接的な影響を与えます。 - 栄養バランスの不良
不十分なタンパク質摂取は筋肉量の維持を妨げ、カルシウムやビタミンDの不足は骨密度を低下させます。また、ビタミンKは骨代謝に関与しており、不足すると骨折リスクが増加します。 - 運動器疾患
骨粗鬆症、変形性関節症、脊柱管狭窄症などの疾患は、痛みや動きの制限を伴い、運動能力の低下を招きます。これらの疾患が原因でロコモを発症する場合も多くみられます。
加えて、やせすぎや肥満、喫煙、アルコール多飲、糖尿病などの生活習慣病もロコモのリスク要因として知られています。これらの要因を複数抱えている方は、特に注意が必要です。
ロコモのセルフチェック方法
ロコチェックと立ち上がりテスト
ロコモの早期発見には、簡単に実施できるチェック方法が有効です。特にロコチェックは、日常生活の中で運動機能の低下を把握するための簡便なツールとして広く活用されています。
1. ロコチェック
ロコチェックは、以下の7つの項目を確認することで、ロコモのリスクを自己評価できるツールです。これらの項目に1つでも該当する場合、ロコモの可能性が高いとされています。
- 片脚立ちで靴下がはけない。
- 家の中でつまずいたり滑ったりする。
- 階段を上がるのに手すりが必要。
- 家のやや重い仕事が困難である(掃除機の使用、布団の上げ下ろしなど)。
- 2kg程度の買い物を持ち帰るのが困難(1リットルの牛乳パック2個程度)。
- 15分くらい続けて歩くことができない。
- 横断歩道を青信号で渡りきれない。
ロコチェックはその場で無理に動作を行う必要はなく、日常生活を振り返りながら行うことで負担なく実施できます。
2. 立ち上がりテスト
椅子やベッドなどの40cm程度の高さから片脚で立ち上がることができるかを確認します。このテストは、下肢の筋力やバランス能力を評価するのに適しており、難しい場合は筋力の低下を示唆します。
ロコモの予防と対策
ロコモの予防には、運動習慣の確立、栄養改善、生活習慣の見直しが重要です。具体的な取り組みを以下に解説します。
1. 運動習慣の確立
- ロコトレ(ロコモーショントレーニング):
スクワット、片脚立ち、かかと上げなどのシンプルなトレーニングを継続することで、筋力やバランス能力を向上させます。 - 有酸素運動:
ウォーキングやジョギングなど、心肺機能を鍛える運動も重要です。 - ストレッチ:
関節の柔軟性を高め、転倒リスクを軽減します。
2. 栄養改善
タンパク質(魚、肉、豆類)、カルシウム(乳製品、小魚)、ビタミンD(きのこ類やサプリメント)、ビタミンK(緑黄色野菜)をバランスよく摂取することが推奨されます。また、高齢者は食欲が低下しやすいため、必要に応じて栄養補助食品を活用するのも一つの方法です。
3. 生活習慣の見直し
日常生活で積極的に体を動かす工夫を取り入れましょう(例:買い物時に歩く距離を増やす、エレベーターではなく階段を使うなど)。
趣味や社会活動を通じて身体を動かす習慣をつくることも大切です。
4. 医療機関での健康管理
定期的に整形外科を受診し、骨密度や筋力、関節の状態をチェックしましょう。痛みや違和感を覚えた場合は、早めに専門医の診察を受けることで悪化を防ぎます。