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骨粗しょう症

骨粗しょう症とは

骨粗しょう症は、骨密度が低下し、骨の質が劣化することで、骨がもろくなり骨折しやすくなる疾患です。特に高齢者や閉経後の女性で多く見られるこの病気は、進行するまで自覚症状がほとんどなく、骨折などの重大な合併症を通じて初めて診断されることが少なくありません。そのため、「沈黙の疾患」とも呼ばれています。そのため、骨粗しょう症は早期発見と治療が重要です。個々のリスク要因に応じた予防と治療を行うことで、骨折リスクを低減し、健康的な生活を維持することができます。専門医の指導のもと、継続的なケアを受けることが大切です。

骨粗しょう症の原因

骨粗しょう症は、骨密度の低下や骨の質の劣化が複数の要因によって進行する疾患です。これらの要因には、年齢や性別、生活習慣、栄養状態、特定の病気や薬物の使用が関連しています。

1. 加齢による骨密度の低下

骨は、骨形成(新しい骨を作るプロセス)と骨吸収(古い骨を分解するプロセス)のバランスによって健康を維持しています。しかし、加齢とともにこのバランスが崩れ、骨吸収が優勢になります。その結果、骨量が減少し、骨の強度が低下します。 20代後半が骨密度のピークで、その後は加齢とともに徐々に低下します。閉経後の女性は骨密度の低下が急激に進むため、骨粗しょう症のリスクが特に高まります。

2. ホルモンの影響

ホルモンの変化は骨粗しょう症の重要な要因です。

  • エストロゲンの減少: 女性ホルモンであるエストロゲンは骨を保護する役割を果たしますが、閉経後にその分泌が急激に減少します。このため、骨吸収が促進され、骨密度が急速に低下します。
  • テストステロンの減少: 男性でも、加齢とともにテストステロンが減少し、骨密度の低下を引き起こします。

3. 栄養不足

骨の健康には、適切な栄養が欠かせません。特に以下の栄養素が重要です。

  • カルシウム不足: 骨の主要成分であり、不足すると骨がもろくなります。日本人の平均カルシウム摂取量は推奨量を下回る傾向があります。
  • ビタミンD不足: 腸からのカルシウム吸収を助けるビタミンDが不足すると、骨の形成が阻害されます。
  • たんぱく質不足: 骨のコラーゲン成分を形成するたんぱく質が不足すると、骨の弾力性が低下します。

4. 生活習慣の影響

  • 運動不足: 骨は負荷を受けることで強くなります。運動不足や長期間の安静は骨密度の低下を引き起こします。
  • 喫煙: ニコチンは骨形成を阻害し、カルシウムの吸収を低下させます。
  • 過度な飲酒: アルコールの過剰摂取は骨の代謝を乱し、骨量を減少させます。

5. 遺伝的要因

家族歴が骨粗しょう症に関連する場合、そのリスクは約2倍に増加します。特に母親や姉妹が骨粗しょう症の場合、自身の発症リスクが高まります。

骨粗しょう症が進行した場合の症状

骨粗しょう症の進行に伴い、以下の症状が現れることがあります。これらの症状は日常生活に大きな影響を及ぼし、早期治療が必要となります。

1. 骨折

骨粗しょう症が進行すると、転倒や軽い外力で骨折が発生しやすくなります。特に以下の部位で骨折が起こりやすいです。

  • 脊椎(背骨): 圧迫骨折が典型的で、これにより背中や腰の痛みが生じます。
  • 大腿骨頚部(太ももの付け根): 高齢者に多く、手術や長期のリハビリが必要になる場合があります。
  • 手首(橈骨遠位端): 転倒時に手をついた際によく見られます。
  • 上腕骨近位部: わずかな衝撃でも骨折が起こることがあります。

2. 慢性的な痛み

骨折後の治癒過程や姿勢の変化によって、背中や腰に持続的な痛みが生じることがあります。この痛みは患者の活動性を低下させ、生活の質(QOL)を損なう原因となります。

3. 身長の低下

脊椎の圧迫骨折が進行すると、背骨が変形して身長が低下します。若年時と比較して3cm以上縮んでいる場合、骨粗しょう症が疑われます。

4. 姿勢の変化

圧迫骨折により、背中が曲がる「円背(猫背)」が進行します。姿勢の変化は見た目だけでなく、呼吸や消化機能にも悪影響を及ぼします。

5. 呼吸や消化器への影響

脊椎が変形すると内臓が圧迫され、呼吸困難や胸やけ、食欲低下を引き起こすことがあります。

骨粗しょう症の診断方法

骨密度測定は、骨粗しょう症を診断する上で最も重要な検査方法の一つです。当院ではDXA法(二重エネルギーX線吸収測定法)を採用しています。特に閉経後の女性や高齢者にとって、DXA法による定期的な骨密度検査は、健康的な骨を維持し、骨折リスクを低減するために欠かせません。

DXA法の特徴と利点

  1. 高精度
    DXA法は、現在利用されている骨密度測定法の中で最も精度が高い方法です。
    • 測定誤差が少なく、骨密度のわずかな変化も検出可能。
    • 他の測定法(超音波法やCT法)に比べ、診断精度が優れています。
  2. 推奨部位の測定
    DXA法は、日本骨粗しょう症学会や国際ガイドラインで推奨される部位を正確に測定できます。
    • 腰椎(正面): 骨粗しょう症の早期発見に重要。
    • 大腿骨近位部: 大腿骨頚部骨折のリスク評価に役立つ。
    • これらの部位は骨折リスクが高く、骨密度の変化を敏感に反映する部位です。
  3. 診断基準との適合性
    DXA法は、骨粗しょう症の診断基準に直接基づいて測定結果を評価します。
    • 診断基準:
    o 若年成人平均値(YAM)の70%未満、または標準偏差(SD)が-2.5以下の場合、骨粗しょう症と診断されます。
    o さらに骨折歴がある場合、骨密度がYAMの80%未満でも診断の参考になります。
  4. 全身測定が可能
    DXA法は全身の骨密度を測定できるため、局所的な骨密度の低下だけでなく、全身の骨の健康状態を総合的に評価することができます。
    • 例: 前腕部や足の骨密度を測定することで、特殊な状況(外傷、疾患)にも対応可能。
  5. 治療効果の判定
    DXA法は、骨粗しょう症治療の効果を判定する際にも用いられます。
    • 治療開始後の骨密度の変化を追跡することで、治療の有効性を確認。
    • 治療が不十分な場合の方針転換にも役立ちます。

DXA法の検査手順

DXA法は、患者にとって簡便な検査方法です。

1準備

  • 検査の前に特別な準備は必要ありません。
  • 腰や大腿部に金属製のアクセサリーや衣類がないことを確認します。

2検査の流れ

  • 患者は撮影台に仰向けに横たわります。
  • 検査機器が対象部位(腰椎、大腿骨)をゆっくりとスキャンします。
  • 放射線の被ばく量は非常に少なく、安全性が確保されています。

3所要時間

  • 測定は1部位につき約5~10分で終了します。
  • 痛みや不快感はなく、患者への負担が少ないです。

DXA法の診断基準

DXA法の測定結果は、若年成人平均値(YAM)との比較によって評価されます。

  • YAMの範囲:
    ・80%以上: 正常。
    ・70~80%: 骨量減少(骨粗しょう症予備軍)。
    ・70%未満: 骨粗しょう症。
  • 骨密度が低下している場合でも、骨折歴や他のリスク因子を総合的に評価することが重要です。

検査費用

DXA法による骨密度検査は、保険適用が可能であるため、比較的低コストで受けられます。

  • 一般的な費用負担額: 保険適用で約1000~3000円(日本の場合)。
  • 骨粗しょう症の診断や治療効果の判定に利用される場合、医療費控除の対象となることもあります。

その他の骨密度測定法

超音波法

  • 主に踵骨(かかとの骨)を測定。
  • 簡便で低コストですが、精度はDXA法に劣ります。
  • 骨密度のスクリーニングには役立つが、診断には不十分。

CT法(定量的CT: QCT)

  • 骨の三次元画像を取得可能。
  • 精度は高いが、放射線被ばく量が多いため、一般的にはDXA法が優先されます。

骨粗しょう症の治療法

骨粗しょう症の治療は、薬物療法、運動療法、栄養管理を組み合わせて行われます。

1. 薬物療法

薬物療法は骨の代謝バランスを正常化するための中心的な治療です。

  • 骨吸収抑制薬: ビスホスホネート(アレンドロン酸、リセドロン酸など)は骨吸収を抑制します。
    抗RANKL抗体薬(デノスマブ)は骨吸収を強力に抑える作用があります。
  • 骨形成促進薬: 副甲状腺ホルモン製剤(テリパラチド、アバロパラチド)は新しい骨を作る作用があります。
    抗スクレロスチン抗体薬(ロモソズマブ)は骨形成を促進しつつ、骨吸収を抑制します。
  • 補助療法: 活性型ビタミンD製剤、カルシウム製剤、ビタミンK製剤が使用されます。

2. 運動療法

骨に適度な負荷をかけるウォーキングや筋力トレーニング。
バランス運動で転倒リスクを低減します。

3. 栄養管理

  • カルシウムを1日700~800mg摂取。
  • ビタミンDを1日10~20μg摂取。
  • ビタミンKを含む食品(納豆や緑黄色野菜)を積極的に摂取します。

骨粗しょう症の予防策

骨粗しょう症を予防するためには、栄養摂取、適切な運動、生活習慣の改善、環境調整など、多方面からのアプローチが必要です。それぞれの項目について、さらに具体的に深掘りします。

1. 栄養バランスの取れた食生活

骨の健康を保つためには、適切な栄養摂取が不可欠です。特に、カルシウム、ビタミンD、ビタミンK、たんぱく質の摂取が重要です。

カルシウム

骨の主成分であるカルシウムを十分に摂取することが骨粗しょう症の予防に不可欠です。

  • 日の目安摂取量: 成人女性で700~800mg(閉経後や高齢者ではより多く必要)。
  • カルシウムを多く含む食品:
    ・乳製品(牛乳、ヨーグルト、チーズなど)
    ・小魚(ししゃも、煮干し、干しえびなど)
    ・緑黄色野菜(小松菜、ブロッコリー、春菊など)
    ・大豆製品(豆腐、納豆、高野豆腐など)
    ・海藻類(わかめ、ひじき)

ビタミンD

ビタミンDは腸からのカルシウム吸収を助け、骨形成を促進します。日光浴をすることで体内で生成されるほか、食品からも摂取可能です。

  • 1日の目安摂取量: 10~20μg(400~800IU)。
  • ビタミンDを多く含む食品:
    ・魚類(サケ、サバ、イワシ、ウナギなど)
    ・きのこ類(干ししいたけ、マッシュルーム)

ビタミンK

ビタミンKは骨の形成を助け、骨密度の低下を防ぎます。

  • ビタミンKを多く含む食品:
    ・納豆(特にビタミンK2が豊富) ・緑黄色野菜(ホウレンソウ、ケール、ブロッコリーなど)

たんぱく質

骨はカルシウムだけでなくコラーゲンが基盤を構成しています。たんぱく質が不足すると、骨の弾力性が低下し骨折リスクが高まります。

  • たんぱく質を多く含む食品:
    ・肉類、魚類、大豆製品、卵

塩分を控える

過剰な塩分摂取はカルシウムの尿中排泄を促進し、骨密度の低下を招きます。食事では加工食品やインスタント食品を控え、減塩を心がけましょう。

2. 適切な運動

運動は骨に適度な負荷を与え、骨の強度を高めるために非常に重要です。適切な運動習慣を続けることで骨密度が維持され、骨粗しょう症の予防につながります。

体重負荷運動

骨に重力負荷をかけることで骨形成を刺激します。

  • 具体例:
    ・ウォーキング(1日30分を目安)
    ・ランニング
    ・階段の昇降
    ・ダンス

筋力トレーニング

筋力を鍛えることで、骨に加わる力が増し、骨密度の維持が期待されます。

  • 具体例:
    ・スクワット
    ・腕立て伏せ
    ・ダンベルを使った軽負荷の運動
    ・抵抗バンドを使ったトレーニング

バランス運動

転倒による骨折を防ぐために、バランス感覚を鍛える運動も重要です。

  • 具体例:
    ・ヨガ
    ・太極拳
    ・片足立ち(目を閉じて行うことで効果が増加)

【頻度】

  • 週に3~5日、1回あたり20~30分程度の運動が理想的です。
  • 骨粗しょう症のリスクが高い人は、無理のない範囲で継続することが重要です。

3. 生活習慣の改善

禁煙

タバコに含まれるニコチンは骨形成を阻害し、骨密度を低下させます。また、喫煙はカルシウムの吸収を妨げるため、禁煙が骨粗しょう症の予防には不可欠です。

飲酒を控える

過剰なアルコール摂取は骨密度の低下を引き起こします。適度な飲酒を心がけ、週に数日は休肝日を設けることが推奨されます。

日光浴

ビタミンDは紫外線を浴びることで体内で合成されます。日光に適度に当たることで、骨の健康を支えるビタミンDを補うことができます。

  • 具体的な方法:
    ・朝や夕方の10~15分間の散歩
    ・手や顔を日光に当てるだけでも効果的

適切な体重の維持

体重が極端に少ないと骨量も少なくなるため、適切なBMI(18.5~24.9)の範囲を維持することが大切です。過度なダイエットは避け、健康的な体重管理を心がけましょう。

4. 生活環境の見直し、転倒予防

骨粗しょう症による骨折の主な原因は転倒です。家庭や生活環境を整えることで、転倒リスクを減らすことができます。

室内環境の整備

  • 床に物を置かない(コードやラグなどにつまずかないようにする)。
  • 階段や廊下に手すりを設置する。
  • 夜間用の照明やセンサーライトを設置する。
  • 滑り止めマットを浴室や玄関に敷く。

室内環境の整備

  • 室内では滑りにくいスリッパや靴下を使用。
  • 屋外では、しっかり足にフィットする靴を選びます。

5. 定期的な検診

骨粗しょう症は自覚症状がないため、定期的な検診が重要です。特に以下の人々には年に1回の骨密度検査が推奨されます。

  • 閉経後の女性
  • 骨粗しょう症の家族歴がある人
  • 慢性疾患(糖尿病、関節リウマチなど)がある人
  • 長期的にステロイドを使用している人

検診によって骨密度を把握し、早期の介入や治療を行うことで骨粗しょう症を防ぐことが可能です。

骨粗しょう症の予防は、日常生活に少しずつ取り入れることで効果を高めることができます。一つの方法に偏ることなく、総合的な取り組みを行うことが重要です。予防を継続することで、健康な骨を保ち、将来的な骨折リスクを大幅に低減することができます。